言の葉の舟 四海を行く

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ

「距離」

 

穏やかな空間にいて

 

そちらと

こちらと

 

同じ静かな時間が

流れているだけなのに

 

こちらは

寂しい感情がただよい

涙が溢れそうになる

 

そちらは

そちらで

違う言葉で感情を操り


一緒にいる今のこの空間が

意味のないように思えてくる


音にしたって

文字にしたって

伝えきれない感情を

 

気づかれないように

自分自身も気づきたくない


今日は

そんな夜

 

そこにいるのに

距離の断面がずれ

寂しさを生む夜

 

 

 

【20211008】

 

「薄衣(うすごろも)」

 

ちよちよ

春先の まだ 生まれたての小鳥

調子外れで 勝手気まま

 


ほぎゃほぎゃ

家の外までひびく赤児の

鼻先にかけ 母を呼ぶ声

 


新しい命は

いつもこの世で 

一番無防備で

柔らかくも怖いもの知らず

 


目の前で

拳を太ももの上で握りしめて

声にならない泣き声を

あげている

あなたもそうだった

 


人の歩みと

思春期の階段は

新しい鎧を手に入れながらも

無垢な子どもでいれる薄衣を脱いでいく

 


声にならない言葉を

むやみに口にしないだけでも

あなたはまだ

逃げることができる子どもでいれる

 


大人になりかけの

新しい命

この世で一番息苦しく

もがいてる

 


気づいているよ

わかっているよ

 


だけど

投げかける視線だけが

今は

あなたへの答え

 

 

 

【20220410】

 

「夏の桜」

 

黄昏の桜の木に

 

燃えるような夕焼け雲の花が咲いた

 

夏の終わりのこと

 

 


秋には

 

葉の錦が歓びを咲かせ

 

 


冬には

 

春への希望を咲かせ

 

 

 

満開の花びらが

 

応えるように春に咲く

 

 

 

町を見下ろす高台の

 

変わらないこの場所で

 

時を越えて場所を越えて

 

記憶までも追い越して

 

 

 

この場所に咲く

 

 

 

【20190807】

 

「琥珀色に沈めて」

 

夢を見る

同じような夢

何度も見る

 

心の揺れを言葉にできず

無言でやり過ごし

 

殻に閉じこもり

自分を守る言い訳ばかり揃えて

 

相手の傷に

想いを馳せることもできなかった

 

未熟だった私が

力なく立ちすくむ

 

夢の中でも まだ ごめんねが言えず

今日もその手を離してしまう

 

目が覚めて

後悔の痛みを忘れようとすれば

 

どんな時よりも あの時を

手にとるように感じることができる

 

もう会うこともできないなら

夢で抱える後悔だけが

 

時の渦に戻してくれて

リアルに苦い思い出に逆戻りできる

 

できるなら

あの時に二人で帰り

 

苦みの濃い珈琲が

生クリームの渦を取り込んでいくように

 

少し滑らかな思い出に

いつか塗り替えられたら…

 

次に夢で会えたなら

言えるかな…

 

ごめんねとさよならの

準備を始める

 

 

 

【20210825】

 

「星降る夕立」

 

ひどく降った

夕立の後に

 

遅れて届いた日の光が

飴色の空を広げる

 

グラウンドの水たまりは空を映し

不思議な空間をつくる

 

覗き込んだら

私の曇り空も

 

あんなに綺麗に

映してくれるかな

 

雨に打たれて

何もかも叩き落とされ

 

ただ一つ残った

ごめんねのつぶやきの雫が

 

黄金色に押し並べた

神々しい水の鏡に落ちる

 

波紋が私の曇りをとかして

飴色がさらに光って見える

 

静かなる鏡の中が変わり

空のページがめくられる

 

夕立の後に

星が降る

涙の後に

星が降る

 

 

 

【20220716】