詩集「言の葉の舟」

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「花を咲かせて」

 

私は野の草だった


花を咲かせるのかも

咲かせないのかも

わからない


ただ

咲きたいと思う

野の草だった


なんの花でもよかった

咲きたいと願った

 


ある日

一人の詩人が


私を

詩の花壇に植え替えた


そこは言葉の土壌がふかふかで

雨や雷さえも心地よい

 

燦々と

時は紙を埋めていき


私の細胞を

奮い立たせ

成長点を刺激する

 


私は野の草なのだ

ただ 咲きたいと夢見た草なのだ


私はつぽみをつけて

詩人に

咲いた花を見せたい

草なのだ

 

どんな花でも咲かせる

草なのだ

 

 

 

【20220920】

 

「ピンク」

 

眠りに落ちる

その瞬間を包む

肌布団ピンク

 

毎夜毎夜包まれて

端が擦り切れて

取り替えた

ブルーの肌布団も

呼び名はピンク

 

暗闇に吸い込まれるような

まどろみの時間が

幼な子には

少し緊張の時


怖さや心細さを

和らげてくれたピンク

 

大人になれば

そんな小さな夜のおっかなさも

記憶から消えていく

 

包まれて

守られた

記憶はどこかに置き去り

 

あの頃のピンクを握りしめた

小さな手は 大きくなって

 

自分がそんな小さかったことも

臆病だったことも

忘れてしまう

 

その小さな手が

ふわふわとピンクを撫でる

光景が

今は私を包む

 

小さな手が

覚えているものは

多くはないが

 

その小さな手を

握っていた私の記憶は

より鮮明に

ピンクが増す

 

子の独り立ち

思い出に生きる季節が

始まる

 

 

 

【20211011】

 

「一雨一度」

 

一雨ごとに

秋が深まり

一度気温が下がり

冬が近づく

 

 

一笑一度

ひと笑いするごとに

笑みが咲いて

幸せに一度傾き

 

一涙一度

ひとつ涙を流すごとに

強く優しくなって

希望の扉が一度開く

 

季節が

時を重ねて

変化するように

 

私たちも

時を重ねて

転化する

 

一つ一つ

ゆっくりと

 

 

 

【20221005】

 

「風見鶏の憂鬱」

 

空は果て無く遠く

風に煽られ


足元を引きずり

行き当たりばったりのこの一歩

 


見上げれば

悠々と留まる屋根の上


無い物ねだりの

薄っぺらな憂鬱を


一時 風見鶏に預けて

また一歩

 

 

空に近く

風を読む


広く見渡し

指し示す


ただ

飛んでは行けぬ 風見鶏

 


気づけ旅人

あなたは

自分の足で行けるのだから

 

 

 

【20220916】