言の葉の舟 四海を行く

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ

「夜の朝」

 

まだ開けきらない

 

夜の朝

 

西の空は光の兆しが現れ

 

東の空は薄暗さが残る

 

光が墨色を薄め

 

墨色に光がにじむ

 

そうやって

 

目に見える宙(そら)は

 

私の立っている前を繰り返す

 

そして

 

人も物も夢も感情も

 

そうやって

 

私の前を繰り返す

 

今の私は

 

ここに立って

 

どの方向の宙を見ている?

 

ただ見ている方向が違うだけ

 

今の一番暗いところを見て落ち込んだり

 

今の一番明るいところに心躍ってるかも

 

もっと静かに

 

目の前の宙に佇めは

 

誰の前にも

 

夜が明け 朝が開く

 

 

 

【20221026】

 

「発光する命」

 

生きる意味を

探さなくていい

 

輝く方法を

求めなくていい

 

選んで生まれたとか

どうにもならない十字架を

自ら背負わなくていい

 

ただ命が始まり

迎えられ

ただ今を生き

惜しまれて終わる

 

哀しきは

迎えられ 惜しまれる

実感が持てないことだけ

 

言葉が足りないなら

言葉を交わそう

 

温もりが足らなければ

温め合おう

 

愛が足らなければ

愛を与え合おう

 

意味など

こぢつけで

言い訳で

逃げで

孤独を生む

 

意味などなくても

発光する命 そのものが

尊く美しいものだから

 

 

 

【20220930】

 

「静かな時間」

 

街の音がない

朝の時間

 

いってらっしゃいの言葉で送り

空を見上げる

 

明け出る

光の兆し

 

裏山の巣から

囀りの響き

 

どこからか漂う

わずかな金木犀の残り香

 

見えないけれど

そこにある新月

 

見えない物から発する

透き通る気配が

 

攪拌されている私の中の

濁った浮遊物を

 

沈殿させ

静まる音がする

 

しんと鎮まる

静寂の音がする

 

五感をくすぐる気配が

私の中に積もり

 

白く積もった

雪の上を行くように

 

静かな時間の

足跡を残していく

 

 

 

【20221024】

 

「三日月の明かり」

 

「来れる?」

「り」(了解)

いつもの時間のいつのも文字

鞄をもって 急ぎ足

 

オレンジ色の光のしずくを

黒と紺の重なる空に

ぽつんと落としそうな三日月の先っぽに

ちょっとの間 娘をよろしく
と、小さな願掛け

エンジン音の上で 前のめりになる私の横を

左右に見え隠れする 細いあかりが

ハンドルを握る手を柔らかくする


空色と同化した屋根に

ゆったりと揺れるゆりかごが

目の前にくっきり現れ

あと 信号一つ

 

遠くの影が 青信号を合図に動き出し

私は オレンジ色の一粒を 掌で受け止める

 

ただいまの声が 勢いよくドアを閉め

二人の帰り道は 娘の一日がライトの先を走る

 

二つのドアの閉まる音が 一日の喧騒に鍵をかけ

オレンジ色の一粒が団らんの灯をともすころ

安堵を乗せて 三日月は姿を落とし

今日も静かに 夜が始まる



2018年11月26日中国新聞掲載 【20181122】 

 

「証」

 

秋の扉が開き

木々が錦を飾り

山が賑わう朝

 

今年も

土に

白い椿 一輪

 

同じ季節に

一人灯火を消した友の面影を

鮮明に映す汚れなき白

 

早すぎるその時は

名残惜しそうに

まだ瑞々しい白

 

この世の役目を終え

一息ついた様にも見え

魂のままになった透き通る白

 

冷たい土の上に

白 一輪

 

散る山茶花より

落ちた椿の哀しさ

 

土色に

浮き立つように

 

人生 丸ごと

残していく

 

 

 

【20221019】