詩集「言の葉の舟」

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「は・ず・み」

 

木の枝が
とん と揺れて
小鳥が弾んだ

 

もうすぐ春だと
木の枝は
感づく

 

私の肩に
とん と触れて
見えない誰かが合図する

 

そうか今か と
私は
信じて

 

小鳥の真似をしてみる

 

とん と
小さく 跳ねてみる

 

どん と
地面からの衝撃で

 

体の小さなとこまで
弾けた力が
行き渡り

 

細胞が
一歩前へ
はずみをつけた

 

季節が動く

 

 

 

【20220123】

 

「月のように」

時と
宇宙の流れに
抱かれて

変化しながら
巡りゆく

他の輝きを
受けながら

振り向く誰かの
瞳に潔さを映す

暗い夜には
月明かり

朝の青には
暁の月

この月のように
在りたいと

この歳も
憧れと共にめくる暦

充もの 欠けて行くものを
重ねて

永遠の輝きの雫を
心の手の平に留めて 
自らを灯す

月のように
振り返りみる誰かの視線を感じて

 

 

 

【20230115】

 

「春の七草 プラス1」


調子を合わせて

大声で


「せり なすな 

 ごぎょう はこべら 

 ほとけのざ

 すずな すずしろ

 わぎな

 春の八草」


背中で小さくなったランドセルが

カタカタ笑い


長く伸びた自分の影を

追いかけて

無邪気に走る

少年たち


青い春の兆し

成長への駆け足


我が子もその中の一人で

遠い いたずらな言葉など

もう忘れているだろうが


その青い好奇心の声がまだ耳に残り

思い出してはくすりと笑ってしまう


春の八草

少年の日の

青い思い出


萌え出る

青春の若菜

 

 


【20210513】

「呪文」


意味のわからない言葉
ただ ありがとうと聞こえる

知ってる言葉を当てはめると
ただ ありがとうと流れる

何度読んでもわからない
ただ ありがとうが重なる

ーとうとうたらり たらりら
たらりあがり ららりとう(「翁」より)ー

春々ひらり はなびら
めぐりめぐりさようなら

夏々さんさ おてんとさん
たらたら汗ぽたりぽと

秋々かさり こすれ音
木枯らしほっぺひやりと

冬々凍え さむさむ
今年もあがりありがとう

ーとうとうたらり たらりら
たらりあがり ららりとうー

意味もわからないまま
新しい年に読んでみる

とうとうきたり ふくきたり
たがいにたらり ふくたらり(足らり)
ありがとう

 

 

【20220107】

「一年が行く」

 

桜が咲き

春が燃え

緑が踊り

風がそよぐ

 

夏は梅雨明けを告げ

陽が燦々と

熱を持ち

陽炎を揺らす

 

風が月を磨き

錦は色づきを伝え

実りは忘れずにやってきて

豊穣の大地を潤す

 

雪は積もり

寒さに肩寄せ

人の季節は一巡り

吐息交じりで一年一巡り

 

別れも悲しみも

楽しさや希望と

混ざり合い

 

いつか同じ私の中の

巡りとなり

何とも誰とも

区別なく

巡り還る

 

季節も人も時も巡り

この終わりの時が

はじまりの時で

行く年くる年

 

また巡りくる一日を

生ききる年とする

 

 

 

【20221231】

 

「聖夜の呼吸」

 

私は生きている
小さな営みだけど 生きている
 
暗い夜のしじまに凍えながら
小さく息をはいて 誰にも知られず呼吸する
 
思い描いたように
道が続いていかなくても

抱えきれない寂しさが
私を取り込んでしまっても

虚しさが
血流と一緒に私の中を巡っても

しあわせが一つ またひとつ
私の手から溢れていったとしても
 

それでも私は生きている
 
誰かの優しさや助けや
大きな自然のうねりの中で
 
手を差し伸べてくれているモノがあるとしても

誰かのお陰で生きてるんじゃない
私が生きているから
誰かの力が及ぶ
 
私が生きているから…
 

聖夜の星が
ほほを流れて消えて
夢の中に見た景色に私がいなくても
 

それでも
私は生きている
 

メリークリスマス
 

誰にも届かないこの声を
聞いているのはわたしだけ
 
静かな静かな 聖夜の呼吸で
昨日までを吹き消し

今日は
何も望まない

静かな夜

 

 

【20211226】

 

「鳴き雪の気配」

 

動かない
何も動かない
乱れない

澄み渡る天と
きめ細やかな雲の平原
雪のよう

飛行機からの景色は
半分白で半分青
どこまでも白く遠い空の大地は

枝一本も落ちておらず
獣の足跡一つ見えない
遠くに想像してみた
枯れ木の大木も
すぐにかき消される

あなたは
どこまでいくのか
この純白の平原を
一点の汚れもないこの空を

美しいが故に
不安になったかもしれない
光の中故に
振り返ることもせず真っ直ぐに
逝ってしまったのかもしれない

天に続くこの雲には
何も残していけないけれど
逝った人が
ふりかえって私の方を
見た様な気がした

笑い声や
身振り手振りや
口癖や
最後に手を振った心の中も

見えなくとも
確かな存在と生きた証を
しっかりと踏み締めた足音が
聞こえたような気がした

この雲の平原と同じくらい
静かで美しい積雪に沈む
鳴き雪の音のように
清らかに

半分白で半分青

私の視界が
泣きの涙で
しばらく曇った

 

 

 

【20221220】