詩集「言の葉の舟」

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「鎮魂(たましずめ)のカサブランカ」

 

無関心で
無反応で
そう在ることに
徹する意味がある

テレビを遠ざけ
目の前のことに夢中になる
できないことからは
目を逸らす

勝手に
無作為に
見聞きしないことが
今できることなのかもしれない

浮遊させるな
増長させられるな
怒りや不安を
誰かに操られないために

嫌だと
感情より先に
頭の拒否権に従う

今 まさに起こっていることに
信じられないとコメントする
テレビの中の人に

心を奪われたくない

鎮まれ

せめて
私の中で
戦争と平和が戦わないように

カサブランカの香りの中に
魂の静けさを咲かせて

 

 

 

【20220227】

 

「世界の晩餐」

 

ハンバーグをこねる
いつもより丁寧に

まとわりつく脂が
嫌な感じで手にこびりつく


ハンバーグの実像が
気持ち悪さをないものにしてくれる

焼き上がった香ばしい香り
家族の食卓の真ん中に置かれ
空きっ腹を満たす絵が
想像できる

同じ空の向こうで起こっている
市民の恐怖や嘆きや
侵略者と呼び呼ばれた男の考えや
それぞれの守りたいものを

平和や平穏という
望む形に丸めようと思い描く


私の手で出来ることはなく
手にねっとり残る
脂だけがどんどん層を厚くする

今の世界は
誰が作ったハンバーグも
全ての人の欲求を受け入れ
全ての生活を満たすことは
できそうもない

両局にいても
誰もがうまいと言って
食べられるそれを、、、

誰もが喜んで
誰もが譲り合って
食する物を

用意できるのは
一体誰か…
一体何か…
希望は作れるのか…

私は自分の小さな世界に
目を向ける

今夜も
いつもの食卓に
いつもの顔が揃い
日常をいただく

広い世界の中では
無力がぬぐいきれない
ギトギトの脂だらけの
自分の手

それを合わせ
今日をいただく

今のこの目の前のテーブルの上が
私が平和にできる世界なのだから

 

 

 

【20220226】

 

「春隣」

 

年が明け

わずかに春の気配漂い

あの生温かな空気を

安易に予想できる時節に

 

季節は大寒

天の移ろいはまだ暦に沿っていて

 

外は寒中

息は白く凍えて

 

春待ち遠しと空を見上げても

今日は降り頻る雪に視界を奪われ

 

一気に遠くなってしまった春を

背中を丸くして

自分の中だけで広げてみる

 

春隣

首を埋めた

マフラーの中だけが

 

ほんわか暖かく

気持ちだけ

春色の吐息

 

 

 

【20230124】

 

「は・ず・み」

 

木の枝が
とん と揺れて
小鳥が弾んだ

 

もうすぐ春だと
木の枝は
感づく

 

私の肩に
とん と触れて
見えない誰かが合図する

 

そうか今か と
私は
信じて

 

小鳥の真似をしてみる

 

とん と
小さく 跳ねてみる

 

どん と
地面からの衝撃で

 

体の小さなとこまで
弾けた力が
行き渡り

 

細胞が
一歩前へ
はずみをつけた

 

季節が動く

 

 

 

【20220123】

 

「月のように」

時と
宇宙の流れに
抱かれて

変化しながら
巡りゆく

他の輝きを
受けながら

振り向く誰かの
瞳に潔さを映す

暗い夜には
月明かり

朝の青には
暁の月

この月のように
在りたいと

この歳も
憧れと共にめくる暦

充もの 欠けて行くものを
重ねて

永遠の輝きの雫を
心の手の平に留めて 
自らを灯す

月のように
振り返りみる誰かの視線を感じて

 

 

 

【20230115】

 

「春の七草 プラス1」


調子を合わせて

大声で


「せり なすな 

 ごぎょう はこべら 

 ほとけのざ

 すずな すずしろ

 わぎな

 春の八草」


背中で小さくなったランドセルが

カタカタ笑い


長く伸びた自分の影を

追いかけて

無邪気に走る

少年たち


青い春の兆し

成長への駆け足


我が子もその中の一人で

遠い いたずらな言葉など

もう忘れているだろうが


その青い好奇心の声がまだ耳に残り

思い出してはくすりと笑ってしまう


春の八草

少年の日の

青い思い出


萌え出る

青春の若菜

 

 


【20210513】