言の葉の舟 四海を行く

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「夏を探して」

まぶしい陽射しに 片目をつむり 勢いを増してきた初夏の兆しを全身に浴びる 先ほどまで 緊張と不安の時間の中に居たせいか 光の恩恵を受け入れられず 力の入ったままの私 駐車場への道すがら 偶然みつけた日陰の小道 病棟が光を遮り ひんやりとした空気に包…

「せいちょうの花」◇中国新聞 詩壇 掲載◇

天から舞い降りた 光の粒一瞬のうちに 忘れ得ぬ喜びの空気に記憶した金木犀の香り漂う季節小さな命の輝きはその存在自体が一生懸命太陽に照らされる 鏡の背中雨降りの後の水たまりも草花に水をやる大きなジョロも時間を忘れて見入ったありの行列や セミの衣…

「梅雨の色どり」

目が覚めて カーテンの隙間に目をやると届く光の薄さに 空模様が想像できる耳に届くテレビの予報は私の中にぽつぽつと憂鬱を降らし心模様も傘マークハンガーに揺れる 華やか色に気後れしお気に入りから二番目の服を着て灰色の空の下に飛び石の周りの紫陽花は…

「十五歳の今日」

この空の向こうに何がある 遠くを見つめてみるけれど 僕の世界が狭く見えるだけ この道の先に何がある 終わりが見えない道を目指すほど 僕には勇気が足りていない 今日の次に何がある 大人たちは明日があると言うけれど 僕の今日の次はやはり今日 希望の明日…

「ただ一つできること」

悩みを背負ったまま出ていった子が 低くただいまと帰ってくる 野菜を切る手を止めて おかえりと返すと ト ト ト と 階段の鳴る音 その音で まだ心が晴れないことが すぐわかる 母だから 鍋の蓋がカタカタ 私の何もできない 無力さが鳴る 母だけど 野菜をまた…

「朝取れ野菜」

青い時にはちくちくと 朝取りの夏野菜 きゅうりも茄子も 枯れて萎れた 花の名残を 微妙にひっつけて 柔らかい産毛と一緒に ちくちくのとげが 新鮮さを見せつける 太陽からもらった力を たっぷり抱えて みずみずしく 我が家育ちの子どもらも 少しちくちくぐら…

「凸と凹」

ドアのかぎ でことぼこで とびらがひらくよ あたらしいことに きょうも であえる コンセント でことぼこで でんきがながれて むずかしいことが かんたんに できちゃう ビンのふた でことぼこで ふたをしめちゃえ におうものを とじこめられるよ わたしのでこ…

「七色の光と音」

目を凝らさないと 風の一部になってしまいそうな 蜘蛛の糸 朝陽に照らされ 七色の光の点線が 音符みたいに 風に乗り 命の営みがここにあることを 歌ってる たった一つの私たちの命 よーく思いを馳せないと ちっぽけな 切れ切れの毎日に思えるけれど つながり…

「音香の章(おとかのふみ)」

ただ 意味づけが欲しかった うまくいったことにも うまくいかないことも どうして今私がここにいるのか こうやって働いているのか その頃 言葉は私を縛るものだった ある人が 詩を書いてみないかと誘ってくれた 詩を書く時 言葉は私の感じたものを表し 私を…

「世界の晩餐」

ハンバーグをこねるいつもより丁寧に まとわりつく脂が嫌な感じで手にこびりつく がハンバーグの実像が気持ち悪さをないものにしてくれる 焼き上がり家族の食卓の真ん中に置かれ空きっ腹を満たす絵が安易に想像できる 同じ空の向こうで起こっている市民の恐…

「光の場所」

空と雲の間には光がたまる場所がある私たちに届かないときにも命の輝きはあふれてる空と雲の間には暮らしの音と夢の続きが漂う手が届かないときにも決して なくなることはない冬のおぼろ雲は姿のない光の形をみんなの中にくっきりと映し出す空と雲とあなたの…

「耕せば」

土の香り 懐かしく 植物の賑わい 楽しみで 収穫の喜び 待ち遠しい 土を柔らかく しっかり根がはれるように その耕した土に 夏野菜が実のるころ 自分の実りを手土産に 子らが帰り集う 心を柔らかく しっかり命が晴れるように しばし 耕し ほぐし 団欒を囲む …

「灯台」

外海に漕ぎ出して行く子どもたち 心配ないよ 私はこうしてあなたたちの帰る目印になるから そして もっと遠く 広い 海原に出て行くときは 自分の中に防波堤と灯台を持って 自分とあなたたちが大切にしたい誰かの目印になってね そうして あなたが私という目…

「言の葉の舟」

そこにたどり着きたいのにゆらゆら揺れて危なっかしくて 心許なくて 選べば選ぶほど水脈は乱れ目指す岸から離れていくあなたに届けこの想いあなたに響けこの声音あなたにたどり着け 言の葉の舟 四海を越えて 【20220609】