『大人になるまでに』
「母の日って お母さんに感謝する日なん?」 背中で聞く 幼かった息子の疑問 少し答えを探して 「そうだね… 感謝してほしいとは思わないけど ありがとうって言われると嬉しいかな 」 視線を向けると 私を見上げる真っすぐな目 「でもね 母さん 母さんは 僕ら…
休まないと 凹まないと 転げないと 挽回する力も 起き上がる力も 鍛えられないからね 今 しないとね 【20210108】
調子を合わせて 大声で 「せり なすな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ わぎな 春の八草」 背中で小さくなったランドセルが カタカタ笑い 長く伸びた自分の影を 追いかけて 無邪気に走る 少年たち 青い春の兆し 成長への駆け足 我が子もその中…
死にたいと 生きている意味がわからないと 私は 烈火の如く怒る 鬼にもなれず 全てを受け入れる 仏にもなれず 呆然とする ただの人でしかなかった 突き動かす 北風にもなれず 全てを包み込む 太陽にもなれず 動けないでいる ただの人でしかなかった 生きてい…
光の束が 西に傾いた夕陽から届く 教室も 向かい合った顔にも 机に広げられた 教科書のページの間にも オレンジの瑞々しい粒のような 光が行き渡る 明るく照らされた友達の顔を 互いに見ながら 誰からともなく 廊下へ この空気を生む方に向き 遠くを見ると …
近くにいて 遠くに思い 遠くにいて 近くに思う それは 子離れの予行演習 それは 親離れの実践演習 それは 親子の絆を結ぶ しあわせの練習 【20221030】
花を嗅ぎ 草を踏み 樹に登れ 鳥と歌い 欲望の翼を広げ 夢を啄め 風を切り 雨に涙し 水たまりにはまれ 月の満ち欠けにとらわれず 自分の足跡を星座に結び 夜を恐れず行け 赴くままに 自らが 然り 行く時 己以外の 力の大きさと 愛の深さと 希望の温かさの 傘…
桜の花が咲き誇り 新しい生活に 希望の色を散りばめる 一人その姿を見送る側は なんだか遠くのことのように 世界を分けられた気がする 勝手に流れる涙を 拭うこともせず 口角だけを少し上げてみる 「でっかい船が浮かんだり、 飛行機が飛んだり、 長い橋を架…
許してあげようよ あの怒りも 許してあげようよ あの涙も そして 許してあげようよ そうできなかった わたし自身も 【20210818】
穏やかな空間にいて そちらと こちらと 同じ静かな時間が 流れているだけなのに こちらは 寂しい感情がただよい 涙が溢れそうになる そちらは そちらで 違う言葉で感情を操り 一緒にいる今のこの空間が 意味のないように思えてくる 音にしたって 文字にした…
ちよちよ 春先の まだ 生まれたての小鳥 調子外れで 勝手気まま ほぎゃほぎゃ 家の外までひびく赤児の 鼻先にかけ 母を呼ぶ声 新しい命は いつもこの世で 一番無防備で 柔らかくも怖いもの知らず 目の前で 拳を太ももの上で握りしめて 声にならない泣き声を …
嘘のかけらを不意に飲み込むと 傷つくこともあるけれど かけらを優しさで集めると 壊れそうなこころの形が 浮かび上がる それが嘘だとわかるより ウソをついた心情に 痛みが走る 誰かを思う偽りや 誰かを安心させる秘密が 相手のことを 傷つけたくないという…
愛されたことを覚えてて欲しい 眠りにつくまで 撫でたこと 抱き抱えて 背中をトントンしたこと 上瞼が もう我慢できないくらいに 重たくなって 全身の重みが こちらによりかかり その姿を見る私が どんなに幸せだったか… 小さな寝息と共に あなたに愛が沈殿…
清々しく 迷いもためらいもなく すっくと立つ竹の青さ 堂々と力強く残る 成長の刻印 どんな出会いも出来事も 善し悪しの眼鏡でみればモノクロ写真 目の前の景色を美しい目で見渡せば 限りなく深く燃ゆる緑のきらめき 心躍る喜びは しなやかさを味方につけ 苦…
天から舞い降りた 光の粒一瞬のうちに 忘れ得ぬ喜びの空気に記憶した金木犀の香り漂う季節小さな命の輝きはその存在自体が一生懸命太陽に照らされる 鏡の背中雨降りの後の水たまりも草花に水をやる大きなジョロも時間を忘れて見入ったありの行列や セミの衣…
この空の向こうに何がある 遠くを見つめてみるけれど 僕の世界が狭く見えるだけ この道の先に何がある 終わりが見えない道を目指すほど 僕には勇気が足りていない 今日の次に何がある 大人たちは明日があると言うけれど 僕の今日の次はやはり今日 希望の明日…
悩みを背負ったまま出ていった子が 低くただいまと帰ってくる 野菜を切る手を止めて おかえりと返すと ト ト ト と 階段の鳴る音 その音で まだ心が晴れないことが すぐわかる 母だから 鍋の蓋がカタカタ 私の何もできない 無力さが鳴る 母だけど 野菜をまた…