七十二候
春に命を繋ぐ 冬籠りの季節に 二度と目覚めない 連れ合いを見送る義母(はは)の姿 別れは突然で さよならもありがとうも 天に立ち昇る煙に追いつかず ぽっかり空いた寂しさを 何で埋めればいいかもわからず 涙が雪に変わり 思い出の上に白く降り積もる 春は…
桜が春に 私たちを招き入れる 待たせたねーと 春に招き入れる 春爛漫 桜爛漫 花びらの渦が 春の渦を起こす 心踊る束の間の はる さくら やがて 風を起こして 花びらをはらはらと 名残惜しそうに 見上げる私たちに 初夏の魔法をかける 散る花びらも 眩しい葉…
調子を合わせて 大声で 「せり なすな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ わぎな 春の八草」 背中で小さくなったランドセルが カタカタ笑い 長く伸びた自分の影を 追いかけて 無邪気に走る 少年たち 青い春の兆し 成長への駆け足 我が子もその中…
冬ざれ 寒さに縮こまる だけどその寒さの中でしか見れない景色がある 心が寒々と風に吹かれても その時にしか聞こえない 心音(こころね)がある 寒空に立ち 凍えそうになっても 勇気のボタンを締め 希望の襟を立て 瞳の中に 輝きを閉じ込める 見たい景色と …
涙を流した人たちが 幾人も 通り過ぎて行きました ひと時私の前に立ち止まり 言葉にならない感情の発露を 涙に含んで 静かに流して行った 今は 何もなかったかのように 私のそばを離れ 涙の跡までも霞の中に消えていく それでいい 目の前が色鮮やかな景色が …
穂並に涼しい風が渡り 実りの秋に季節は移り 七十二候 禾乃登(こくものすなわちみのる) 人の心の機微を感じたくて 息づく自然を近くに感じたくて 言葉を一つ一つ紡ぐ 黄金の一粒一粒が豊かに頭を垂れ 収穫されるよう 言の葉がつながり 流れる一編をしたた…
暑い暑いと言うけれど 暑い暑いは同じだけれど 季節は足踏みせず ゆるりゆるりと回転し 地球と同じく 次の場面へと 私たちを運んでいく 変わらず 暑い暑いと言うけれど 暑い暑いの感じ方がやや違う 季節の言の葉知りうれば 体感が機微に触れる 「涼風至(す…
光の粒に洗われて より色鮮やかな百日紅 土の熱さに照らされて 一筋揺れる蜘蛛の糸 青天を味方に 際立ちて夏 七十二候 土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)を 迎える 【20220728】