詩集「言の葉の舟」

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「妹背の滝で」

水鞠が 跳ねて乱れて 集まりて 錦の鏡 妹背の秋に 日々弾け 納まりてまた 動き出す 休息の午後 妹背の滝で 【20221123】

「月の顔」

赤銅色の満月を 見上げた昨日が 遥か時間の彼方に感じ 今朝見た ほてっとした黄みの満月が 同じものとは思えない 見えるものは 私の心が見ているもの 見えているのは 私の見方で映るもの 追いかければ それは熱を帯びた月になり 迎え入れれば それは静かな朝…

「ころ柿」

頂いた ころ柿 日和の 縁側に 吊した 夕陽色 眩しく 並んで 隣人の 丁寧な 仕事が 繋がる 渋さを 和らげ 甘さを 染ませ 五感で 味わい 喜びで 満ちる ころ柿 食べ頃 こころ 楽しむ 【20221106】

「涙の跡の色」

涙を流した人たちが 幾人も 通り過ぎて行きました ひと時私の前に立ち止まり 言葉にならない感情の発露を 涙に含んで 静かに流して行った 今は 何もなかったかのように 私のそばを離れ 涙の跡までも霞の中に消えていく それでいい 目の前が色鮮やかな景色が …

「眼差しは美しき光のように」

光が美しい秋は 目に映る景色も それをおさめた写真も 美しい 私たちの眼差しはどうだろう 人が成長する時に飛び散る 金色の花粉のような 小さな兆しや 実を結ぶまでの 美しい過程を 見届ける眼(まなこ)と ありのままを照らす眼差しで 視線を注いでいるだ…

「静かな時間」

街の音がない 朝の時間 いってらっしゃいの言葉で送り 空を見上げる 明け出る 光の兆し 裏山の巣から 囀りの響き どこからか漂う わずかな金木犀の残り香 見えないけれど そこにある新月 見えない物から発する 透き通る気配が 攪拌されている私の中の 濁った…

「証」

秋の扉が開き 木々が錦を飾り 山が賑わう朝 今年も 土に 白い椿 一輪 同じ季節に 一人灯火を消した友の面影を 鮮明に映す汚れなき白 早すぎるその時は 名残惜しそうに まだ瑞々しい白 この世の役目を終え 一息ついた様にも見え 魂のままになった透き通る白 …

「教えて、ゴーヤ先生」

先生 教えてくださいな 夏が過ぎ 秋になり ツルの巻き方や 実りの遺伝子も 全部全部伝えただろうに さらに花をつけ ツルを巻き 先へ先へと進んでいく 根元に咲いた花は萎れ 土に近く巻いたツルは乾き それでも 更に伸びるのは 何故ですか? 【20221002】

「実り」

実が色づき始めると 葉が落ちる 自然の愛情の 深さと潔さを知る 【20200930】

「窓」

家の窓から わずかに色づく庭を見る 庭に出て 色づいた木々の窓から 門を叩く色のない風を見る 寂しさや侘しさが 木々の色づきを引き立て 縁側で 季節がいそいそと 移ろい行くのを愉しむ 自然に向かう 私の窓を開け 今朝も 風を呼び込む 【20220912】

「秋の魔法」

庭の草木 秋の魔法で 虫食い葉 レースみたいに 光の刺繍 茶色く縁取り 美しく織られて はらはら落ちて 魔法の絨毯 冬支度の ちちんぷいぷい 【20190930】

「満ちる時間」

茹だるような暑さを 思い出すこともできないくらいに この金色の風に 撫でられて 朝に白露が輝く 夕に空を見上げると ちょうど中秋に 満ちる月 あと僅かな膨らみを 少しずつ空に集めて 満月になる 白露が その足りない場所に 舞い上がり あと二日重なり 空の…

「吾亦紅」

ここにいる 見えていますかと 背中に聞く 語りかける桔梗のように しとやかな声を出す勇気もなく 可憐に微笑む秋桜のように 距離を縮められるわけでもなく 季節にたなびくススキのように 心を揺さぶる風も吹かせない 過ぎゆく秋に わずかに赤く萌え 頬を赤く…