詩集「言の葉の舟」

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「天空をとび超えて」

並ぶ星のように ぴったりとその心に寄り添いたいけど 隣の心が 見た目よりずっとずっと遠くにある いつか届くかな…誰かの心が届くかな… 思春期の 心にロケット 飛ばせたい 【20230523】

「鏡を見つめて」

二つの鏡を持つ 一つは今を見る鏡 一つは未来を見る鏡 今を見る鏡は 曇らせてはいけない しっかり自分の今を見つめ 誤魔化すことなく 自らの語りに頷く そして 未来を見つめる鏡は 自分の顔の横に立てる 何がうつっているかはわからないが 鏡を磨き上げ 明日…

「本棚の中身」

そこには なりたかった未来と憧れた誰かが 背表紙をこちらに向けて道標を示す そこには 諦めて行かなかった先の風景が残る 手放したはずの道の上に 今の自分が立ち続けている不思議 そこには 求め続けた母親像が並ぶ 母心のものさしを探し求め いつしか私自…

「春より早く」◇中国新聞 詩壇 掲載◇

春に命を繋ぐ 冬籠りの季節に 二度と目覚めない 連れ合いを見送る義母(はは)の姿 別れは突然で さよならもありがとうも 天に立ち昇る煙に追いつかず ぽっかり空いた寂しさを 何で埋めればいいかもわからず 涙が雪に変わり 思い出の上に白く降り積もる 春は…

「萌え方の色」

桜が歌い 桜が舞い 心に淡く 次の春への希望となる 見上げていた 薄桃色が 周りの木々の緑に溶け込むころ 庭で 足元の小さな花々が 歌い出す 土の近くで 首を伸ばし 精一杯に 光を受けとり じっと動かず 萌えて私に 希望の種を 一つ落とす 【20230403】

「朝の響き」

おはようと声かけあう 家族の調子はいつも通り 水道の蛇口からは 透明の水が勢いよく出て ガスも電気も パチンという音で温かい バスもブォーんと 少し重そうなエンジン音 仕事は昨日の続き隣の席の人は変わらない書類のめくる音は乾いてる だけど 朝… よい…

「春どき、桜どき」

桜が春に 私たちを招き入れる 待たせたねーと 春に招き入れる 春爛漫 桜爛漫 花びらの渦が 春の渦を起こす 心踊る束の間の はる さくら やがて 風を起こして 花びらをはらはらと 名残惜しそうに 見上げる私たちに 初夏の魔法をかける 散る花びらも 眩しい葉…

「卒業」

誰にでも 涙にくれた夜がある 誰にでも 心の傷を数えた夜がある 誰にでも 闇夜に逃げ込んだ覚えがある あの時 言葉にならなかった刃が 自分をえぐった あの時 振り上げた拳を 奴でなく物にぶつけた あの時 何が悲しくて 涙が出たのかわからない 人はいつも …

「小さい人」

私たち大人は なんて浅はかなんだろう 小人(こども)はそれを知っていて 無理難題や謎かけを仕掛けてくる 小人(こども)はその小さな体に宇宙を持ち 私たち大人はその宇宙に戸惑う どんなに優秀なロケットに 乗り込んでも その空間は 遠く大人には息苦しい…

「その訳」

生きた分だけ 悲しみは深くなる 生きた分だけ 喜びは多くなる それは 私が一人ではないということ 別れへの恐れや不安も また同じ あなたの涙の訳は 「ひとりじやなかった」という証 【20220306】

「小さな疑問」◇中国新聞 詩壇賞◇

「母の日って お母さんに感謝する日なん?」 背中で聞く 幼かった息子の疑問 少し答えを探して 「そうだね… 感謝してほしいとは思わないけど ありがとうって言われると嬉しいかな 」 視線を向けると 私を見上げる真っすぐな目 「でもね 母さん 母さんは 僕ら…

「春の七草 プラス1」

調子を合わせて 大声で 「せり なすな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ わぎな 春の八草」 背中で小さくなったランドセルが カタカタ笑い 長く伸びた自分の影を 追いかけて 無邪気に走る 少年たち 青い春の兆し 成長への駆け足 我が子もその中…

「一年が行く」

桜が咲き 春が燃え 緑が踊り 風がそよぐ 夏は梅雨明けを告げ 陽が燦々と 熱を持ち 陽炎を揺らす 風が月を磨き 錦は色づきを伝え 実りは忘れずにやってきて 豊穣の大地を潤す 雪は積もり 寒さに肩寄せ 人の季節は一巡り 吐息交じりで一年一巡り 別れも悲しみ…

「聖夜の呼吸」

私は生きている小さな営みだけど 生きている 暗い夜のしじまに凍えながら小さく息をはいて 誰にも知られず呼吸する 思い描いたように道が続いていかなくても 抱えきれない寂しさが私を取り込んでしまっても 虚しさが血流と一緒に私の中を巡っても しあわせが…

「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」

冬ざれ 寒さに縮こまる だけどその寒さの中でしか見れない景色がある 心が寒々と風に吹かれても その時にしか聞こえない 心音(こころね)がある 寒空に立ち 凍えそうになっても 勇気のボタンを締め 希望の襟を立て 瞳の中に 輝きを閉じ込める 見たい景色と …

「母のコート」

木枯らしの足音が 聞こえる季節 いつも手に取る古いコート 父が母に残した冬の思い出 時代の匂いや 苦労が染みついた繊維 陰陽の日々が語る色の抜けた黒 それでも手触りは滑らかで 初めて手にした母の喜びは 内ポケットの中に潜んでいるみたい 柔らかい生地…

「庭に咲く白い花」

太陽の光が強く届く 美しい海は友であり 風が懐かしい思い出を運ぶ そんな南の島で 余生を生きるおじい 子にとってそこは帰る所で 孫にとっては訪れる場所 男三世代 生活の密度の差は広がり 時間の流れる速さや 愛情の方向も違い まるでかみ合わない違う世界…

「塗香の羽衣」

気高い祈り 叶わないかも 届かないかも それでも あなたのために 誰かのために 今 心を添えて 今 手を合わす できる私も できない私も いるけれど 捉われの縄をほどき 塗香の香りに 包まれて 天女の羽衣を纏い 祈りの雲に乗り 心のままに思いのままに 【2022…

「明日の明日のために」

希望だけの明日だけじゃない明日なんて来なけりゃいいのに…と それでも太陽が昇るように川が流れるように明日はやってくる 気休めでもいい目を閉じて心を閉じて 騒つく映像を消して 明日の明日を見つめよう 【20221128】

「夜明けの色 朝の色」

夜明け 藍色の夜の濃さが 光に薄まっていく 数分間で変化する 空の色 色を重ね変化することは ある意味 難しくはない 色を薄めながら 光に近づいていく この時間は 計り知れない力が 空を押し上げ 朝の色を散りばめる 夜明け前の変化に 追いつきたい私がいる…

「妹背の滝で」

水鞠が 跳ねて乱れて 集まりて 錦の鏡 妹背の秋に 日々弾け 納まりてまた 動き出す 休息の午後 妹背の滝で 【20221123】

「高嶺」

雲の上に 白く盛られた 富士の頂 水平に広げられた 薄雲を従え 氷河のような 厚雲に守られて 空とも海ともわからない 青にぽっかり浮かぶ 稜線が白く浮き上がり 険しさを流し サラ砂をゆっくりと降らしたような 細やかな白肌 そこには どう行けばよいですか…

「十五歳 生きる意味」

死にたいと 生きている意味がわからないと 私は 烈火の如く怒る 鬼にもなれず 全てを受け入れる 仏にもなれず 呆然とする ただの人でしかなかった 突き動かす 北風にもなれず 全てを包み込む 太陽にもなれず 動けないでいる ただの人でしかなかった 生きてい…

「星か涙か」

昨夜見た 空の悲しみは 私の悲しみなのか ならば 私の中にも あの星たちのように 煌めくカケラが あるのだろうか 夜が泣き 星が溢れ 私が泣き 涙が流れる 悲しみの空には 夜のしじまで冷たく凍り 頬の雫と 空の雫と 見分けがつかず 瞬く 【20221118】

「点と線」

結果を求めすぎて それもプラスの結果を求めすぎて 私たちは動けなくなったり 本来の姿を見失ったりする そんな自分の状況さえも わからなくなるほど 迷走している時間が長くなると うまくいかないことは 伝染する様に大きくなって行く 点と点と点が ずっと…

「宙(そら)を渡る」

月とオリオン座と 見えない無数の星が 夜を渡る 希望と淡い展望と 得体のわからない不安が 私を前へと進める 明ける前の 濃い暗さから遠ざかりたくて 少しでも早くと気持ちがせいて つんのめって 慌てた私の足が ようやく歩幅を整える 宙をいく天体は 急ぎも…

「月の顔」

赤銅色の満月を 見上げた昨日が 遥か時間の彼方に感じ 今朝見た ほてっとした黄みの満月が 同じものとは思えない 見えるものは 私の心が見ているもの 見えているのは 私の見方で映るもの 追いかければ それは熱を帯びた月になり 迎え入れれば それは静かな朝…

「ころ柿」

頂いた ころ柿 日和の 縁側に 吊した 夕陽色 眩しく 並んで 隣人の 丁寧な 仕事が 繋がる 渋さを 和らげ 甘さを 染ませ 五感で 味わい 喜びで 満ちる ころ柿 食べ頃 こころ 楽しむ 【20221106】

「バイバイ」

いろいろあるよね いろいろあるさ それでいいんよ いいんよそれで 心と身体を 重苦しく縛っていた鎖が切れたなら 軽やかに行こう 【20221105】

「涙の跡の色」

涙を流した人たちが 幾人も 通り過ぎて行きました ひと時私の前に立ち止まり 言葉にならない感情の発露を 涙に含んで 静かに流して行った 今は 何もなかったかのように 私のそばを離れ 涙の跡までも霞の中に消えていく それでいい 目の前が色鮮やかな景色が …