言の葉の舟 四海を行く

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「小さな」

どこから来たのか白い花 唇に赤色をのせ 頬には桜色をほんのり滲ませて はじめましてと 小さな花 私の心の庭にも 種を飛ばし 柔らかい土壌に 小さな芽吹き 驚きと喜びとで 軽やかに一歩さきへと 小さな変化 小さく小さく それでも 大きく 大きく大きく 弾ん…

「証」

秋の扉が開き 木々が錦を飾り 山が賑わう朝 今年も 土に 白い椿 一輪 同じ季節に 一人灯火を消した友の面影を 鮮明に映す汚れなき白 早すぎるその時は 名残惜しそうに まだ瑞々しい白 この世の役目を終え 一息ついた様にも見え 魂のままになった透き通る白 …

「長月の端」

雨の朝 桔梗の瞼 閉じたまま 九月の声に まだ夢枕 八月のたすきが 朝夕の風と 虫の音の涼やかさにたなびき 手渡され 長月の端は ゆっくり 瞼を開く 【20230901】

「夏の輪郭」

旅先の 朝ゆく雲に 時間とあかねが 緩く混ざる 風ゆく波に 思い出と青さが 穏やかに重なる 心許せる 友とのひととき 夜明けが 夏の輪郭を 色づけていく 【20230809】

「夏は嫌いだ」

熱く 夏は何もかもが熱く 煌めく 暑さは誰もを煌めかせる そう見える そう見える たった一人で 息苦しくなる時は 季節なんて鬱陶しいだけで 太陽なんて 上がるか下がるか どちらかにして欲しいと 何もかも面倒になる 一人蒸された部屋の中で 夏が夏らしく じ…

「平和の額縁」

原爆ドームを ぐるりと一回り 建物の さらに柵の外に居るのに 壁が落ち 天井もなく 残った窓枠の向こう側の景色を 見ることができる 青い空や緑の木々が広がり 雲の白さが夏を暑くする 新しいビルのガラスはひかり 電車の音は日常の鐘を鳴らす 人々が集い額…

「おもいをはなち」

きれい きれいでない どちらのおもいでも うつくしく かたれるようになるのが ははのねがい たんざくにかかれた むすめたちの どんなねがいも ぐるりとまわって えがおをつなぐのが ははのねがい おもいでのたんざくが そらたかくはなたれると ふかくふかく …

「朝行く月から」

夏の朝 西に行く月 青空に音叉のような優しい音を残して こちらにも届きましたよ 頂きましたよ そして 私をすり抜けて 共鳴して同じ波に揺蕩う人々の朝にも 柔らかく伝え伝え空気を揺らす 一人から仲間へそして外へ 朝行く月は広く行く 【20230804】 ランキ…

「リトマス試験紙」

十五歳の気持ちが わからなくて ここに あなたをサラッと撫でれば あなたもきがつかないうちに 赤青パパッと判明できる 試験紙があれば もっと明確に 心を言い当てられるのに… 何度も首を傾げるあなたに 私が差し出せるのは 拙い言葉と 意味を持たないうなづ…

「ある日の私は」

ある日の私は 暮れた空を背負って その日の全てをドタドタと 玄関口に下ろし もうそこに 座り込んでしまいたくなる 乱雑に置かれた荷物と同じように 言葉もなく ひんやりとした畳に 倒れ込む ある日の私は 少し余裕があって 日暮れと共に落ち着きを取り戻す …

「ちくちく」

青い時にはちくちくあれ 朝取りの夏野菜 きゅうりも茄子も 枯れて萎れた 花の名残を 微妙にひっつけて 柔らかい産毛と一緒に ちくちくのとげが 新鮮さをアピール 我が家育ちの子どもらも 少しちくちくぐらいで 社会の食に働きなさい トゲトゲにならないよう…

「足跡」

走るひと 歩くひと まっすぐ行くひと 寄り道するひと 戻るひと オドオド行くひと サクサク行くひと そんな日と そんな人 色々あっていいよね どんなときにも 行った分だけ 足跡が残る 子どもたち自身が 見過ごしてしまいそうな どんな足跡も 見つけられる そ…

「当たり前に笑う」

春に桜が舞い散るように 夏に蝉の声が届くように 秋に実りの喜びがあるように 冬に空がひんやりと澄み渡るように 365日 当たり前のように 笑顔でいたい 【20181018】

「大人の役割」

若者の 成功体験は 自信につながる 失敗体験は 自分を支える 若者よ 自らを信じる前に 自らを分かろう そして大人たちよ どちらの体験も 目の前の若者の輝きであることに 心が騒ぐ喜びを 忘れてはいけない 【20230702】

「朝の庭」

カーテンを開けて 光を呼び込む ドアを開けて 風を迎え入れる 朝の庭に立ち 出来立ての空気を抱き 緑に目を開き 空の青さを吸い込む 体の中が静かになり そして動き出すのを感じる 今日を生きるための 準備は完了 新しい一日を 始める 【20230619】

「雨の中の家出」

どこに行くのかかたつむり 家を担いで家出かい? 今日は 緑の木々も 青い空も広がってる 見上げたことはあるのかな 見えているのか色の世界 どこに行くのか かたつむり 家を担いで家路に着くかい? 今日は 雨が 降ってきたから どこかで雨宿り いやいや 自分…

「天空をとび超えて」

並ぶ星のように ぴったりとその心に寄り添いたいけど 隣の心が 見た目よりずっとずっと遠くにある いつか届くかな…誰かの心が届くかな… 思春期の 心にロケット 飛ばせたい 【20230523】

「鏡を見つめて」

二つの鏡を持つ 一つは今を見る鏡 一つは未来を見る鏡 今を見る鏡は 曇らせてはいけない しっかり自分の今を見つめ 誤魔化すことなく 自らの語りに頷く そして 未来を見つめる鏡は 自分の顔の横に立てる 何がうつっているかはわからないが 鏡を磨き上げ 明日…

「本棚の中身」

そこには なりたかった未来と憧れた誰かが 背表紙をこちらに向けて道標を示す そこには 諦めて行かなかった先の風景が残る 手放したはずの道の上に 今の自分が立ち続けている不思議 そこには 求め続けた母親像が並ぶ 母心のものさしを探し求め いつしか私自…

「春より早く」◇中国新聞 詩壇 掲載◇

春に命を繋ぐ 冬籠りの季節に 二度と目覚めない 連れ合いを見送る義母(はは)の姿 別れは突然で さよならもありがとうも 天に立ち昇る煙に追いつかず ぽっかり空いた寂しさを 何で埋めればいいかもわからず 涙が雪に変わり 思い出の上に白く降り積もる 春は…

「萌え方の色」

桜が歌い 桜が舞い 心に淡く 次の春への希望となる 見上げていた 薄桃色が 周りの木々の緑に溶け込むころ 庭で 足元の小さな花々が 歌い出す 土の近くで 首を伸ばし 精一杯に 光を受けとり じっと動かず 萌えて私に 希望の種を 一つ落とす 【20230403】

「朝の響き」

おはようと声かけあう 家族の調子はいつも通り 水道の蛇口からは 透明の水が勢いよく出て ガスも電気も パチンという音で温かい バスもブォーんと 少し重そうなエンジン音 仕事は昨日の続き隣の席の人は変わらない書類のめくる音は乾いてる だけど 朝… よい…

「春どき、桜どき」

桜が春に 私たちを招き入れる 待たせたねーと 春に招き入れる 春爛漫 桜爛漫 花びらの渦が 春の渦を起こす 心踊る束の間の はる さくら やがて 風を起こして 花びらをはらはらと 名残惜しそうに 見上げる私たちに 初夏の魔法をかける 散る花びらも 眩しい葉…

「卒業」

誰にでも 涙にくれた夜がある 誰にでも 心の傷を数えた夜がある 誰にでも 闇夜に逃げ込んだ覚えがある あの時 言葉にならなかった刃が 自分をえぐった あの時 振り上げた拳を 奴でなく物にぶつけた あの時 何が悲しくて 涙が出たのかわからない 人はいつも …

「小さい人」

私たち大人は なんて浅はかなんだろう 小人(こども)はそれを知っていて 無理難題や謎かけを仕掛けてくる 小人(こども)はその小さな体に宇宙を持ち 私たち大人はその宇宙に戸惑う どんなに優秀なロケットに 乗り込んでも その空間は 遠く大人には息苦しい…

「その訳」

生きた分だけ 悲しみは深くなる 生きた分だけ 喜びは多くなる それは 私が一人ではないということ 別れへの恐れや不安も また同じ あなたの涙の訳は 「ひとりじやなかった」という証 【20220306】

「小さな疑問」◇中国新聞 詩壇賞◇

「母の日って お母さんに感謝する日なん?」 背中で聞く 幼かった息子の疑問 少し答えを探して 「そうだね… 感謝してほしいとは思わないけど ありがとうって言われると嬉しいかな 」 視線を向けると 私を見上げる真っすぐな目 「でもね 母さん 母さんは 僕ら…

「未完成の先に」

伝えたい 想いや景色 言葉を選び 言葉を置き換える どこまで表現すればよいのか 分からなくなり また元に戻したり… ほんとのところは 私の言葉では伝えられない 受け取って 感じた先に あなたの言葉になる だから 未完成でも言葉を並べる あなたの心の先に …

「世界の晩餐」

ハンバーグをこねるいつもより丁寧に まとわりつく脂が嫌な感じで手にこびりつく がハンバーグの実像が気持ち悪さをないものにしてくれる 焼き上がった香ばしい香り家族の食卓の真ん中に置かれ空きっ腹を満たす絵が想像できる 同じ空の向こうで起こっている…

「春の七草 プラス1」

調子を合わせて 大声で 「せり なすな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ わぎな 春の八草」 背中で小さくなったランドセルが カタカタ笑い 長く伸びた自分の影を 追いかけて 無邪気に走る 少年たち 青い春の兆し 成長への駆け足 我が子もその中…