言の葉の舟 四海を行く

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「一年が行く」

桜が咲き 春が燃え 緑が踊り 風がそよぐ 夏は梅雨明けを告げ 陽が燦々と 熱を持ち 陽炎を揺らす 風が月を磨き 錦は色づきを伝え 実りは忘れずにやってきて 豊穣の大地を潤す 雪は積もり 寒さに肩寄せ 人の季節は一巡り 吐息交じりで一年一巡り 別れも悲しみ…

「聖夜の呼吸」

私は生きている小さな営みだけど 生きている 暗い夜のしじまに凍えながら小さく息をはいて 誰にも知られず呼吸する 思い描いたように道が続いていかなくても 抱えきれない寂しさが私を取り込んでしまっても 虚しさが血流と一緒に私の中を巡っても しあわせが…

「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」

冬ざれ 寒さに縮こまる だけどその寒さの中でしか見れない景色がある 心が寒々と風に吹かれても その時にしか聞こえない 心音(こころね)がある 寒空に立ち 凍えそうになっても 勇気のボタンを締め 希望の襟を立て 瞳の中に 輝きを閉じ込める 見たい景色と …

「母のコート」

木枯らしの足音が 聞こえる季節 いつも手に取る古いコート 父が母に残した冬の思い出 時代の匂いや 苦労が染みついた繊維 陰陽の日々が語る色の抜けた黒 それでも手触りは滑らかで 初めて手にした母の喜びは 内ポケットの中に潜んでいるみたい 柔らかい生地…

「庭に咲く白い花」

太陽の光が強く届く 美しい海は友であり 風が懐かしい思い出を運ぶ そんな南の島で 余生を生きるおじい 子にとってそこは帰る所で 孫にとっては訪れる場所 男三世代 生活の密度の差は広がり 時間の流れる速さや 愛情の方向も違い まるでかみ合わない違う世界…

「塗香の羽衣」

気高い祈り 叶わないかも 届かないかも それでも あなたのために 誰かのために 今 心を添えて 今 手を合わす できる私も できない私も いるけれど 捉われの縄をほどき 塗香の香りに 包まれて 天女の羽衣を纏い 祈りの雲に乗り 心のままに思いのままに 【2022…

「明日の明日のために」

希望だけの明日だけじゃない明日なんて来なけりゃいいのに…と それでも太陽が昇るように川が流れるように明日はやってくる 気休めでもいい目を閉じて心を閉じて 騒つく映像を消して 明日の明日を見つめよう 【20221128】

「夜明けの色 朝の色」

夜明け 藍色の夜の濃さが 光に薄まっていく 数分間で変化する 空の色 色を重ね変化することは ある意味 難しくはない 色を薄めながら 光に近づいていく この時間は 計り知れない力が 空を押し上げ 朝の色を散りばめる 夜明け前の変化に 追いつきたい私がいる…

「妹背の滝で」

水鞠が 跳ねて乱れて 集まりて 錦の鏡 妹背の秋に 日々弾け 納まりてまた 動き出す 休息の午後 妹背の滝で 【20221123】

「高嶺」

雲の上に 白く盛られた 富士の頂 水平に広げられた 薄雲を従え 氷河のような 厚雲に守られて 空とも海ともわからない 青にぽっかり浮かぶ 稜線が白く浮き上がり 険しさを流し サラ砂をゆっくりと降らしたような 細やかな白肌 そこには どう行けばよいですか…

「十五歳 生きる意味」

死にたいと 生きている意味がわからないと 私は 烈火の如く怒る 鬼にもなれず 全てを受け入れる 仏にもなれず 呆然とする ただの人でしかなかった 突き動かす 北風にもなれず 全てを包み込む 太陽にもなれず 動けないでいる ただの人でしかなかった 生きてい…

「星か涙か」

昨夜見た 空の悲しみは 私の悲しみなのか ならば 私の中にも あの星たちのように 煌めくカケラが あるのだろうか 夜が泣き 星が溢れ 私が泣き 涙が流れる 悲しみの空には 夜のしじまで冷たく凍り 頬の雫と 空の雫と 見分けがつかず 瞬く 【20221118】

「点と線」

結果を求めすぎて それもプラスの結果を求めすぎて 私たちは動けなくなったり 本来の姿を見失ったりする そんな自分の状況さえも わからなくなるほど 迷走している時間が長くなると うまくいかないことは 伝染する様に大きくなって行く 点と点と点が ずっと…

「宙(そら)を渡る」

月とオリオン座と 見えない無数の星が 夜を渡る 希望と淡い展望と 得体のわからない不安が 私を前へと進める 明ける前の 濃い暗さから遠ざかりたくて 少しでも早くと気持ちがせいて つんのめって 慌てた私の足が ようやく歩幅を整える 宙をいく天体は 急ぎも…

「月の顔」

赤銅色の満月を 見上げた昨日が 遥か時間の彼方に感じ 今朝見た ほてっとした黄みの満月が 同じものとは思えない 見えるものは 私の心が見ているもの 見えているのは 私の見方で映るもの 追いかければ それは熱を帯びた月になり 迎え入れれば それは静かな朝…

「ころ柿」

頂いた ころ柿 日和の 縁側に 吊した 夕陽色 眩しく 並んで 隣人の 丁寧な 仕事が 繋がる 渋さを 和らげ 甘さを 染ませ 五感で 味わい 喜びで 満ちる ころ柿 食べ頃 こころ 楽しむ 【20221106】

「バイバイ」

いろいろあるよね いろいろあるさ それでいいんよ いいんよそれで 心と身体を 重苦しく縛っていた鎖が切れたなら 軽やかに行こう 【20221105】

「涙の跡の色」

涙を流した人たちが 幾人も 通り過ぎて行きました ひと時私の前に立ち止まり 言葉にならない感情の発露を 涙に含んで 静かに流して行った 今は 何もなかったかのように 私のそばを離れ 涙の跡までも霞の中に消えていく それでいい 目の前が色鮮やかな景色が …

「オレンジ色の栞」

光の束が 西に傾いた夕陽から届く 教室も 向かい合った顔にも 机に広げられた 教科書のページの間にも オレンジの瑞々しい粒のような 光が行き渡る 明るく照らされた友達の顔を 互いに見ながら 誰からともなく 廊下へ この空気を生む方に向き 遠くを見ると …

「眼差しは美しき光のように」

光が美しい秋は 目に映る景色も それをおさめた写真も 美しい 私たちの眼差しはどうだろう 人が成長する時に飛び散る 金色の花粉のような 小さな兆しや 実を結ぶまでの 美しい過程を 見届ける眼(まなこ)と ありのままを照らす眼差しで 視線を注いでいるだ…

「静かな時間」

街の音がない 朝の時間 いってらっしゃいの言葉で送り 空を見上げる 明け出る 光の兆し 裏山の巣から 囀りの響き どこからか漂う わずかな金木犀の残り香 見えないけれど そこにある新月 見えない物から発する 透き通る気配が 攪拌されている私の中の 濁った…

「三日月の明かり」◇中国新聞 詩壇 掲載◇

「来れる?」 「り」(了解) いつもの時間のいつのも文字 鞄をもって 急ぎ足 オレンジ色の光のしずくを 黒と紺の重なる空に ぽつんと落としそうな三日月の先っぽに ちょっとの間 娘をよろしくと、小さな願掛け エンジン音の上で 前のめりになる私の横を 左…

「それも いいね」

自分のために生きるって 自分のために走るって 自分のために歌うって 自分のために涙するって いいね いいね いいね それも いいね 【20221014】

「いいね」

誰かのために生きるって 誰かのために走るって 誰かのために歌うって 誰かのために涙するって いいね いいね いいね いいもんだね 【20221013】

「花を咲かせて」

私は野の草だった 花を咲かせるのかも 咲かせないのかも わからない ただ 咲きたいと思う 野の草だった なんの花でもよかった 咲きたいと願った ある日 一人の詩人が 私を 詩の花壇に植え替えた そこは言葉の土壌がふかふかで 雨や雷さえも心地よい 燦々と …

「絹の糸」

意味も無く流れる涙も 癒えた傷が痛むのも 笑いながらふと寂しくなるのも 私には必要だ 私は 人の心に触れていたい そこから紡ぐ 細い絹糸の様な言の葉で 光沢のある布を織る 詩人でありたいから 【20221009】

「ピンク」

眠りに落ちる その瞬間を包む 肌布団ピンク 毎夜毎夜包まれて 端が擦り切れて 取り替えた ブルーの肌布団も 呼び名はピンク 暗闇に吸い込まれるような まどろみの時間が 幼な子には 少し緊張の時 怖さや心細さを 和らげてくれたピンク 大人になれば そんな小…

「一雨一度」

一雨ごとに 秋が深まり 一度気温が下がり 冬が近づく 一笑一度 ひと笑いするごとに 笑みが咲いて 幸せに一度傾き 一涙一度 ひとつ涙を流すごとに 強く優しくなって 希望の扉が一度開く 季節が 時を重ねて 変化するように 私たちも 時を重ねて 転化する 一つ…

「風見鶏の憂鬱」

空は果て無く遠く 風に煽られ 足元を引きずり 行き当たりばったりのこの一歩 見上げれば 悠々と留まる屋根の上 無い物ねだりの 薄っぺらな憂鬱を 一時 風見鶏に預けて また一歩 空に近く 風を読む 広く見渡し 指し示す ただ 飛んでは行けぬ 風見鶏 気づけ旅…

「縁が和家の庭で」

どこにいても 私は私 髪をとき 仕事をし 食事を作り 空を見上げ 花を覗き 言葉を並べる 語り笑い どこにいても私は私 それは 私の真ん中が いつも この庭にあるから ここがあるから どこにいても 私は私で在る 【20221003】