言の葉の舟 四海を行く

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「卒業」

誰にでも 涙にくれた夜がある 誰にでも 心の傷を数えた夜がある 誰にでも 闇夜に逃げ込んだ覚えがある あの時 言葉にならなかった刃が 自分をえぐった あの時 振り上げた拳を 奴でなく物にぶつけた あの時 何が悲しくて 涙が出たのかわからない 人はいつも …

「小さい人」

私たち大人は なんて浅はかなんだろう 小人(こども)はそれを知っていて 無理難題や謎かけを仕掛けてくる 小人(こども)はその小さな体に宇宙を持ち 私たち大人はその宇宙に戸惑う どんなに優秀なロケットに 乗り込んでも その空間は 遠く大人には息苦しい…

「その訳」

生きた分だけ 悲しみは深くなる 生きた分だけ 喜びは多くなる それは 私が一人ではないということ 別れへの恐れや不安も また同じ あなたの涙の訳は 「ひとりじやなかった」という証 【20220306】

「小さな疑問」◇中国新聞 詩壇賞◇

「母の日って お母さんに感謝する日なん?」 背中で聞く 幼かった息子の疑問 少し答えを探して 「そうだね… 感謝してほしいとは思わないけど ありがとうって言われると嬉しいかな 」 視線を向けると 私を見上げる真っすぐな目 「でもね 母さん 母さんは 僕ら…

「未完成の先に」

伝えたい 想いや景色 言葉を選び 言葉を置き換える どこまで表現すればよいのか 分からなくなり また元に戻したり… ほんとのところは 私の言葉では伝えられない 受け取って 感じた先に あなたの言葉になる だから 未完成でも言葉を並べる あなたの心の先に …

「なくならない」

0歳 永遠の命を無くした 8歳 父を亡くした 18 歳 夢を無くした 28 歳 私を忘れた 38 歳 私らしさを失った 48 歳 自信を無くした まだまだ無くしたものは わずか 58 歳 思い描く未来を無くすかも 68 歳 自由を無くすかも 78 歳 してあげたい気持ちを無くすか…

「風景になって」

一人になりたい時もある 一人ぼっちになっちゃう事もある きれいな空が やけに心に刺さり 感傷に耽る時がある そんな思春期の心を 一人にさせたくない時がある 電柱にでも 塀にでも 梅の木にでも なって 揺らぐ心の隅っこに ちらちら映る 風景でいたい あな…

「雪の花」

自分の中に 残酷さを見ることがある 自分の発想に 疑問を持つことがある 今朝のこと 庭に立つ私 枯れ木に朝の雪が積もり まるで花をつけているよう 私はそれを見て 雪の花と言葉にした 可愛らしくこんもり咲いて そこに少し春を色づけた と 同時に 自然を見…

「福は内 鬼も内」

私の内には福がある 私の中には鬼もある 福を育てたいと 明日を望み 鬼が悪さをしないよう 今日を過ごす どちらも 私の中に 生きていて 顔を出したり 引っ込めたり 福がなければ心は砂漠化 鬼がなければ危機感なさすぎ 福だけでも物足りず 鬼だけでも殺伐と…

「しないとね」

休まないと 凹まないと 転げないと 挽回する力も 起き上がる力も 鍛えられないからね 今 しないとね 【20210108】

「足を上げて」

よく積もったな 白い雪 屋根も 庭木にも 門までの飛び石の上にも 遠くに見るには 綺麗な積雪だが 足を取られ くっつき 冷たさが 染みてくる 歩きにくさを感じながら いつもより足を上げて歩いてみた ブツクサ言うな 状況が悪ければ 行動を変えればいい ブツ…

「鎮魂(たましずめ)のカサブランカ」

無関心で無反応でそう在ることに徹する意味がある テレビを遠ざけ目の前のことに夢中になるできないことからは目を逸らす 勝手に無作為に見聞きしないことが今できることなのかもしれない 浮遊させるな増長させられるな怒りや不安を誰かに操られないために …

「光の花」

雪のように儚く 溶けて無くなる命も 泥の中 身動きできず 立ちすくむ命も 美しく懸命に咲く 自分を責めないで 誰も恨まないで 真っ白い光と共に 生まれてきたのだから 【20230125】

「世界の晩餐」

ハンバーグをこねるいつもより丁寧に まとわりつく脂が嫌な感じで手にこびりつく がハンバーグの実像が気持ち悪さをないものにしてくれる 焼き上がった香ばしい香り家族の食卓の真ん中に置かれ空きっ腹を満たす絵が想像できる 同じ空の向こうで起こっている…

「春隣」

年が明け わずかに春の気配漂い あの生温かな空気を 安易に予想できる時節に 季節は大寒 天の移ろいはまだ暦に沿っていて 外は寒中 息は白く凍えて 春待ち遠しと空を見上げても 今日は降り頻る雪に視界を奪われ 一気に遠くなってしまった春を 背中を丸くして…

「は・ず・み」

木の枝がとん と揺れて小鳥が弾んだ もうすぐ春だと木の枝は感づく 私の肩にとん と触れて見えない誰かが合図する そうか今か と私は信じて 小鳥の真似をしてみる とん と小さく 跳ねてみる どん と地面からの衝撃で 体の小さなとこまで弾けた力が行き渡り …

「月のように」

時と宇宙の流れに抱かれて 変化しながら巡りゆく 他の輝きを受けながら 振り向く誰かの瞳に潔さを映す 暗い夜には月明かり 朝の青には暁の月 この月のように在りたいと この歳も憧れと共にめくる暦 充もの 欠けて行くものを重ねて 永遠の輝きの雫を心の手の…

「春の七草 プラス1」

調子を合わせて 大声で 「せり なすな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ わぎな 春の八草」 背中で小さくなったランドセルが カタカタ笑い 長く伸びた自分の影を 追いかけて 無邪気に走る 少年たち 青い春の兆し 成長への駆け足 我が子もその中…

「呪文」

意味のわからない言葉ただ ありがとうと聞こえる 知ってる言葉を当てはめるとただ ありがとうと流れる 何度読んでもわからないただ ありがとうが重なる ーとうとうたらり たらりらたらりあがり ららりとう(「翁」より)ー 春々ひらり はなびらめぐりめぐり…

「一年が行く」

桜が咲き 春が燃え 緑が踊り 風がそよぐ 夏は梅雨明けを告げ 陽が燦々と 熱を持ち 陽炎を揺らす 風が月を磨き 錦は色づきを伝え 実りは忘れずにやってきて 豊穣の大地を潤す 雪は積もり 寒さに肩寄せ 人の季節は一巡り 吐息交じりで一年一巡り 別れも悲しみ…

「聖夜の呼吸」

私は生きている小さな営みだけど 生きている 暗い夜のしじまに凍えながら小さく息をはいて 誰にも知られず呼吸する 思い描いたように道が続いていかなくても 抱えきれない寂しさが私を取り込んでしまっても 虚しさが血流と一緒に私の中を巡っても しあわせが…

「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」

冬ざれ 寒さに縮こまる だけどその寒さの中でしか見れない景色がある 心が寒々と風に吹かれても その時にしか聞こえない 心音(こころね)がある 寒空に立ち 凍えそうになっても 勇気のボタンを締め 希望の襟を立て 瞳の中に 輝きを閉じ込める 見たい景色と …

「母のコート」

木枯らしの足音が 聞こえる季節 いつも手に取る古いコート 父が母に残した冬の思い出 時代の匂いや 苦労が染みついた繊維 陰陽の日々が語る色の抜けた黒 それでも手触りは滑らかで 初めて手にした母の喜びは 内ポケットの中に潜んでいるみたい 柔らかい生地…

「庭に咲く白い花」

太陽の光が強く届く 美しい海は友であり 風が懐かしい思い出を運ぶ そんな南の島で 余生を生きるおじい 子にとってそこは帰る所で 孫にとっては訪れる場所 男三世代 生活の密度の差は広がり 時間の流れる速さや 愛情の方向も違い まるでかみ合わない違う世界…

「塗香の羽衣」

気高い祈り 叶わないかも 届かないかも それでも あなたのために 誰かのために 今 心を添えて 今 手を合わす できる私も できない私も いるけれど 捉われの縄をほどき 塗香の香りに 包まれて 天女の羽衣を纏い 祈りの雲に乗り 心のままに思いのままに 【2022…

「明日の明日のために」

希望だけの明日だけじゃない明日なんて来なけりゃいいのに…と それでも太陽が昇るように川が流れるように明日はやってくる 気休めでもいい目を閉じて心を閉じて 騒つく映像を消して 明日の明日を見つめよう 【20221128】

「夜明けの色 朝の色」

夜明け 藍色の夜の濃さが 光に薄まっていく 数分間で変化する 空の色 色を重ね変化することは ある意味 難しくはない 色を薄めながら 光に近づいていく この時間は 計り知れない力が 空を押し上げ 朝の色を散りばめる 夜明け前の変化に 追いつきたい私がいる…

「妹背の滝で」

水鞠が 跳ねて乱れて 集まりて 錦の鏡 妹背の秋に 日々弾け 納まりてまた 動き出す 休息の午後 妹背の滝で 【20221123】

「高嶺」

雲の上に 白く盛られた 富士の頂 水平に広げられた 薄雲を従え 氷河のような 厚雲に守られて 空とも海ともわからない 青にぽっかり浮かぶ 稜線が白く浮き上がり 険しさを流し サラ砂をゆっくりと降らしたような 細やかな白肌 そこには どう行けばよいですか…

「十五歳 生きる意味」

死にたいと 生きている意味がわからないと 私は 烈火の如く怒る 鬼にもなれず 全てを受け入れる 仏にもなれず 呆然とする ただの人でしかなかった 突き動かす 北風にもなれず 全てを包み込む 太陽にもなれず 動けないでいる ただの人でしかなかった 生きてい…