言の葉の舟 四海を行く

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「ただ一つできること」

 

悩みを背負ったまま出ていった子が

低くただいまと帰ってくる

 

野菜を切る手を止めて

おかえりと返すと

 

ト ト ト と

階段の鳴る音

 

その音で

まだ心が晴れないことが

すぐわかる

母だから

 

鍋の蓋がカタカタ

私の何もできない

無力さが鳴る

母だけど

 

野菜をまた切り始める

優しく優しく

今あの子に触れることができるのは

この食事だけだから

 

 

【20220502】