目の前の景色は
一瞬で 私の夏になった
圧倒的な存在感 阿蘇
古の地球の躍動 阿蘇
緩やかに連なる緑の曲線と
所どころ鋭く走る稜線は
雲のベールでより神秘的に
空は 荘厳な大地の生き様に
ひれ伏すように山々を覆う
ぐるりと360度見渡す私の中に
大地と空が鼓動する
胸を打つ音が速く
いつもよりたっぷりと
息を吸い
全てが私の中にあるこの感覚に
しばらく浸る
不意に
横風に体を押され
足元を見た途端
大きく口を開けた自然の中に
一人取り残されたようで 足がすくむ
その恐れから逃げようと目を瞑ると
その境界はなく
瞼の裏に
大地も空も
暗く迫ってくる
一時でも
この腕に景色を一抱えにしたおごりを
一喝された心持になり
誰にともなく許しを請う
足元を過ぎる風が
草の間をさわさわと駆け抜け
畏敬の呪縛を解く
目を開けると
その圧巻の景色は
明確に私を隔て
雄々しく 美しい
とうてい抱えきれない
触れることはできない大地と空が
とうとうと 私に夏を流し込む
胸の前で握ったこぶしから
零れ落ちないように
明日に帰る
振り返らず
遠くまで 緑の波を寄せていく
阿蘇の風に背中を押されて
【20200904】