詩集「言の葉の舟」

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「女優になる」

 

 

歳を重ねて

女優になる

 

空覚えの穏やかな言葉を 一つ一つ並べ

慈しみの視線を はるか遠くに向ける

バラードを歌うように大きくゆっくりと

優雅な仕草でふるまう

 

素の私では叶わないけれど

何もかも台本通りに

 

他人にも自分にも吐き捨てた

とがった言葉は 忘却の彼方に

理想と現実を隔てた思い込みは水に流し

 

目じりのしわはかくさず 

重力に甘んじるこの身も

忙(せわ)しい毎日の程よいブレーキに

小気味よいヒールの音は響かなくても

素足で一歩 物語を刻む

 

五十路の舞台に 私は立つ

薄紅色の花道には

まぶしいスポットライトより

自然光がよく似合う

 

まとったものを軽やかに指ではじいて

顔を上げると

私は そこから自由になる

 

やがて女優は 私に重なり

また少し 私になる

 

 

 

【20201217】