言の葉の舟 四海を行く

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「白い器」

 

白と

一口に言っても 百通りを超える

いろいろ想像できるはず

 

なのに

夫婦って関係は

わかっているようで

貧相な想像力でわかっちゃいない

笑いが出る

 

ある日の会話

 「白い器で統一したいね」

  いいね  二つ返事で同意

 

 「必要ないもの棚から出そうか」

  いいね  調子よく手をたたき同意

 

調理台に出されていく器たち

スペースが空き 

スッキリご機嫌な私

 

が、次の動作で

夫が手をかけたと同時に

 

 「えーーーーっ!」

 

かすかにビブラートのかかった

上ずった声がのどから飛び出し

 

自分が発した

あまりにも素っ頓狂な声に

少しびっくりしながら

 

夫の顔を覗き込む

見慣れたはずの白髪交じりの頭が

不思議と黒々と見えて

すっと動く手が白く見えた

 

 「だってこれ好きじゃないもん」

 

 「ちょっと待ってよ!

  それ私の一番のお気に入り!」

 

なんと なんと

好きすぎて 出し渋って使っていた

レースをあしらったような

金の縁取りが清楚なお皿

 

 「好き嫌いじゃなくて

  これは文句なしに白でしょ!」

 

何の問題もなかったように

元の位置に戻す私

 

せっかく救ったのにまた出されては

気分の良い休日の午後が

どんよりするから

 

変わって私が次の器に触れると

 

 「おいおい それはおいといて」

 

な、な、なんですと??

 

 

サラダボールに一面広がるイチゴ畑

これのどこが白ですか?

 

聞きたい気持ちが

そこまで言葉を押し出したが

 

毎朝ヨーグルトを入れて食べてるから

百歩譲って白い器と認めよう

 

認めよう 認めよう

 

呪文を唱える

 

 

そしてさっきの

自分の素っ頓狂な声を

もう一度 再現してみる

 

さっきより もっと大げさに

のどを震わせてみる

 

 「えーーーーっ!」

 

 

そして

 

一人で笑ってみた

 

 

銀婚式も過ぎた二人

まさかの「白い器」という

単純なハードルに

膝を打ち 躓き 軽く転倒

 

手をついた時の砂の粒粒の感触が

不思議と刺激的だったり

膝の青あざが

何だか新鮮だったりして…

 

これから

私たちは

どんな器を

白と主張するのだろう

 

ざらざら白や つるつる白

深い白や   薄っぺらい白

青い白や   土気色の白

柄物も    透明な物も

 

白と思ったら

好きだと思ったら

愛着があると思ったら

 

 それが 今のあなたの

 白なのね

 

いつまでも 小さな驚きを喜び

膝の青あざを

 「いたたたた❘❘」と撫でる

夫婦でいたいね

 

 

私たちの白は 

永遠に 

 

カラフルだから

 

 

 

【20210513】