あぜ道を散歩する
すれ違いざま
耳の不自由なお母さんへの心無い声
聞こえるはずがないのに
うつむく小さなあなたの手は
強く握られた母の手に
守られた
美容の道 五十年 ひたすら行く
手に職が宿り 人生をつくった
鏡に映る目の前の人の人生を癒し
華やぎを添え
時には背中を押した
家族の人生も豊かに支え
こぼれる笑みも
流れる涙も
いくつもいくつもその手に重ね握りしめた
道の途中
病は
生と死の時間を分けた
けれども 生き様も死に様も
あなたにとっては一本道
己の道を 跡に継いだ
あの日と同じ
まっすぐなあぜ道と
すーっと飛んだトンボと
母の手が
あなたの旅立ちを迎えて
夏の終わりに
愛する人に手を振り
颯爽と旅立ったあなた
今日はあなたの誕生日
あなたが手掛けたことの一つに
私の人生が触れていたことを
忘れやしない
ー人生の厳しさと
面白さと
人への慈しみを
教えてくれた
人生の先輩に 感謝を込めてー
【20210905】