涙を流した人たちが
幾人も
通り過ぎて行きました
ひと時私の前に立ち止まり
言葉にならない感情の発露を
涙に含んで
静かに流して行った
今は
何もなかったかのように
私のそばを離れ
涙の跡までも霞の中に消えていく
それでいい
目の前が色鮮やかな景色が
色濃くなっていくごとに
涙の滲んだ下書きや
薄めの消しゴムのあとは
わからなくなるもの
それでいい
今朝の錦秋の景色の様に
あなたの笑顔の筆で描くならば
その色を含む
繊維の繊細さが
深い色を放つから
涙の跡の色彩は
静かに沈み
今のあなたの景色を
浮き立たせ
深みのある色が
息をし始める
【20221103】