詩集「言の葉の舟」

家族と自然と人の心を愛する心筆家のブログ詩集

「朝の準備」

 

どこからか

ピアノの調べ

 

家を出るまでの

慌ただしさが

嘘のように静まる

 

心ごと傾けると

鳥の声も鮮やかに聞こえ

水の流れも際立って聞こえる

 

誰かに聴かせるためでもなく

その人にとっては

朝の日課の一つに過ぎない

 

気づかずに通り過ぎる

流れる音や色

 

受け取った喜びは

心に染み入り深みとなり

 

余裕のない手狭な私の中に

不思議と大きな場所を

作ってくれた

 

鍵盤に手を置きながら

弾くその人もそうなのかもしれない

 

日常の時間が

その人にも今日を受け取る場所を

作っているのかもしれない

 

清い調べに塗り替えられた

小さな部屋は

静かに私たちを待つ

準備を始めた

 

 

 

【20230511】